“僧侶”、もしくは“イラストレーター”としての生「中川 学」GAKU NAKAGAWA

流れに身を任せて

 

「僕は今まで水が流れるような人生を生きて来たと思います。」インタビューが始まって、最初に彼がふいに言ってくれた言葉だ。

何かを無理してやろうとは思わないという彼は、答えを決めて動くようなことはしないという。「もちろん、“ターニングポイント”と言える出来事がなかったわけではありませんが、基本的には流れに身を任せてここまで来てると思います。」

 

昔から“絵”が好きだったという彼だか、“絵”一筋で生きて行くことはとても難しく、“お坊さん”としての運命もあり、イラストレーターとして、また、お坊さんとしての人生に結果的になったという。広告会社でサラリーマンとして働いていた経験を持つ彼は「大阪の広告会社でイラストを発注する仕事を担当していました。その仕事をやっていたら自分が絵を描いた方が早いかなということに気づき、直接絵を描くようになったのです。そしたら個人的にイラストの依頼が来るようになって…」という流れでイラストレーターとしての新たな人生が始まると同時に先祖代々から受け継いで来たお寺を継ぐことになったという。

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与えられたことに対し、最善の努力を

 

彼は、作品活動についての信念というものは特に決めていなく、自身が描いた“絵”が社会にどういう形にでも役に立つのであれば良いと語ってくれた。「哲学とか、信念とか、そういうことは特にないです。でも望みがあるとしたら与えられたことに対し、それをどう伝えたら人々にもっと伝わりやすいのかについて考え、うまくその意味が伝えられたら良いなと思います。」、「文書であっても、絵であっても、まずは最初の人の思いが存在し、それを表現することから全てが始まります。僕の仕事は、絵を通じて、相手に誤解なく伝えること。ただそれだけです。」と語る彼から信念というものより強い“暖かい心”が感じられた。

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経験から生まれる作品

 

彼は、記憶に残る作品について“世界で一番貧しい大統領のスピーチ”と“遠野物語”を挙げた。

“世界で一番貧しい大統領のスピーチ”という絵本は「本のイラストの提案があった時、ちょうど震災があった時期でもあって、今の日本を生きている子供達に是非読んでもらいたいと思った作品だったんです。又、本のモデルである“ホセ・ムヒカ”大統領のスピーチが“絵”で日本の人々にしっかり伝えられるように、すごく悩んだ作品でもあります。」、「スピーチの絵を描いて、そのスピーチを聞いている人を描くだけだと伝わらない気がして、冒頭にムヒカ大統領に日常生活のシーンを描き加えました。大統領らしからぬ素朴な暮らしを描くことで、スピーチに説得力が増すだろうと思ったからです。それを表現するために何度もスピーチ以外のムヒカさんのドキュメント映像を見ましたね」と言う彼から、一つの作品に関わる彼の姿勢が感じられた。

 

又“遠野物語”という絵本は民族学的にもとても有名であり、「民族学の原点」とも言われている。そんな本を絵本として制作することで、どういう“絵”で表現すれば良いかを考えているうちに、「自然の不思議さ」、「山への畏怖心」をよりリアルに描いてみることにしたという。「取材の為に、実際に遠野の山中に入って、ウロウロしながら歩いていたら、誰もいないところまでたどり着いたんです。それは人間と自然の関係において、自然の大事さがわかったというより自然からの恐怖、そのものでした。大きな自然の中で人間は本当に小さな存在であるということです。昔の人間が感じていた自然の圧倒的な存在感を伝えようと思いました。」と自らの経験を通して作品の表現を考える彼から、テーマを伝える作業についての熱情や確信が見えた。

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仏にもらった力

 

作品と仏教の関係は?という問いに、作品自体に宗教的テーマを入れ込むというより、「絵を描けることは、僕が仏様から託された力」と言い、「ただ単に自分のできることをしているだけ」と流れに身を任せている彼の人生そのものを語ってくれた。

「絵を描く、文書を書く、またそれ以外のどのような芸術活動も、他の生物にできることではないです。物をみて何か違うことを連想できる能力が進化の過程で身についたとき、抽象的な宗教と芸術が誕生したんだと思います。宗教も芸術も同じ人間の特性であり、業なんです。」「芸術活動をしている人はその意味で自分の力を悪いところに使わないように注意しなければならないですね。例えばデザイナーや芸術家の力が戦争賛美の道具として使われてきた過去がある。今後しっかり覚悟しておかなければ自分も知らない間に巻き込まれてしまうかもしれません」と、仏からもらった力の使い方について話した。

「クリエイターは魔法使い」と語る彼から芸術が人間の心を動かす大事な道具であると言うことがわかった。

又、魔法使いのような彼がこれからも人々に希望を与え、その意味がしっかり伝わるように私たちも素直な気持ちで物を見る努力をし、人間が与えられた能力をより良いところに使えるように頑張らないといけないだろう。

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泉鏡花『朱日記』発売記念アニメーション

龍潭譚 Ryutandan

DVD「オノミチサンポ」ダイジェスト

Profile

イラストレーター。家業は浄土宗西山禅林寺派の僧侶。
05
年、ドイツの美術出版社TASCHEN発行の、今世界で注目すべきイラストレーターを紹介した本「ILLUSTRATION NOW!」に選ばれ掲載される。また07年以来ロンドン発の雑誌monocleの挿絵、表紙絵を手掛けるなど、京都から世界へと活躍の場を広げている。
関西を中心に活躍する挿絵師集団<七人の筆侍>の一匹。

Born in Kyoto, Japan(1966), Gaku is an illustrator, and also lives as a dedicated Buddhist priest in Kyotos temple.
His unique and heart-warming Japanese and pop style illustrations for numerous posters, magazines, and books have brought him acknowledgement and praise both in Japan and abroad.
Internationally, he has been featured in the art book publisher TASCHEN (Germany) work ILLUSTRATION NOW”, and his designs have also appeared on the covers of the art /contemporary culture magazine MONOCLE. HAPPY BIRTHDAY Mr.B!”, his first book with Robbin Lloyd, was published (contents factory) in 2008.

主な展覧会

2005年 12月京都瑞泉寺にて「京都慕情vol.2」展

2008年 4月東京南青山ギャラリーハウスMAYAにて個展「龍潭譚」

    7月大阪ギャラリー14th.moonにて個展「龍潭譚」+pop*n Buddha

2009年 10月大阪ギャラリー14th.moonにて個展「妖怪modarun」 

    同時開催大阪アートスペース夢玄にて「pop*n Buddha neo

2010年 4月京都祇園ギャルリ正觀堂にて三人展「無限無際」

2011年 4月東京青山ギャラリーハウスMAYAにて個展「橘花抄の世界」

    5月大阪ギャラリー14th.moonにて個展「UKIYO

    6月大阪ギャラリー14th.moonにて個展「一年に一度のアイスクリーム」

    8月金沢泉鏡花祈念会にて個展「泉鏡花×中川学 龍潭譚」予定

主な書作

Happy Birthday Mr.B」コンテンツファクトリー 2008

「一年に一度のアイスクリーム」コンテンツファクトリー 2010

繪草子「龍潭譚」今泉版画工房 20118

主な仕事

週間文春/「万城目学 とっぴんぱらりの風太郎」挿絵 連載開始(2011.6~)

週刊新潮/「葉室麟 橘花抄」挿絵(2009.82010.6

本願寺出版社/「おてらくご」装幀画、さし繪、他(2010

webちくま/「柳家さん喬 落語キッチン」さし繪(2010~)

マイコミ/「幸せが授かる 日本の神様事典」さし繪(2010

     「幸せへと導く 仏様事典」さし繪(2010

角川文庫/夏目漱石シリーズ表紙(2009~)

monocle(ロンドン・雑誌)/monocle挿絵・表紙(20072010

白川書房/月刊京都 表紙画(2007~)

講談社/文芸誌「KENZAN」表紙画(2008)

森ビル/HP用イラストレーション(2008

JAL/機内誌「SKYWARD コラム町の風」連載挿絵(2008~)

小学館/雑誌サライ「中沢昭夫コラム 老い先案内人」挿絵(2008~)

世界文化社/家庭画報「デリシャス」創刊号 錦特集挿絵(2009)

文部科学省/サイト「数字で見る文部科学省:どんな文科」カット(2009)

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中川学 WEB SITE : http://www.kobouzu.net